多くの人に身体的特徴に関するコンプレックスというものがあると思う。

　もちろん僕にも多々ある。

　

　

　その一つとして「モミアゲ」が挙げられる。

　（書けるだけ、本当の意味でのコンプレックスとは言えないかもしれないが）

　

　

　ことの発端は数年前、手稲の白木屋で。

　隣に座った友人に

　「お前、モミアゲねぇなぁ！ﾌﾟ」

　という感じで嘲笑された。

　

　そのときに僕は

　「ん？何言ってるんだ？ちゃんとあるじゃん！」

　と思ったが、そこには大きな勘違いがあったのだ。

　

　皆さんの中での「モミアゲ」 とは一体何だろうか？

　

　自分の中では

　「耳の前方付近に存在する毛髪」

　だったのだが、世間一般としては

　「耳の前方付近から生えている毛髪」

　なのだろう。

　瑣末な違いだよな。ふっ

　

　モミアゲというものを前者と考えていた僕は、 自分にももちろん人並みに モミアゲがあるのだと思っていた。 しかし実際にはおそらく後者で、そうなると 自分は「モミアゲ」というものを所持していない人間ということになって しまう。

　

　

　勘違いしていたのには理由がある。

　小さい頃から床屋で

　「モミアゲどうしますか？」

　と聞かれていたからだ。

　

　常識で考えるなら「無いモノ」に対して 「どうしますか？」とは聞かないだろう。

　

　強引に正しい文章に置き換えるなら

　「モミアゲどうしたんですか？」
　（失くしちゃったの？忘れてきたの？）

　もしくは

　「モミアゲ、付けましょうか？」

　あたりがいいところだ。

　そんなこと聞かれたら、ブチ切れるけど。

　

　

　本当は分かっている…

　

　さすがに自分もそこまで子どもではない。

　店員さんもモミアゲない自分に気を遣ってくれていたのだと思う。

　

　もし幼い頃に床屋さんでイライラした口調で

　「あんた、モミアゲないみたいだけど、（これから）一体どうすんの？」

　とか言われた日には、泣きながらダッシュで家に帰って両親に

　「何で俺にはモミアゲがないんだよぉ！生まれてこなければよかった！」

　と、八つ当たりして両親を困惑させていたかもしれない。

　想像したら何故か目頭熱くなってきた。

　

　そんなこんなで自分はモミアゲ所有者だと勘違いしていたのだ。

　

　知らされたその日から自分にあるのは「モミアゲ」ではなくあくまでも 「モミアゲ風（の毛）」なんだと…　（以下、「モミアゲ風」）

　

　要するに自分の場合は「生えている」のではなく、どこか遠い上の方から 耳の前まで「持ってきている」のである。感覚的には「バーコード」に 非常に近い。

　

　ただ、この年になってそれを知ったのはショックではあるが、憂いなどは 微塵もない。と言ってしまうのは強がりだろうか。

　

　多くの便利な整髪料が売られている時代ではあるが、自分のモミアゲ風を モミアゲに見せかけれるだけのものはまだ見たことがない。カツラしかり、 生えてないものを生えているように見せかけるというのはたやすくはないのだ。

　

　先日、件の友人に肌から「モミアゲ風が浮いている」のがバレた。

　前から見ると、肌にくっついていないので分かるらしい。

　

　残る手段としては、毛が生えている部分の皮膚を移植するか、女性のマユの ように描くか、刺青しかないのだろう。

　どれも色々な意味で微妙だな…

　

　僕のモミアゲ風を指摘した友人が、なぜそのような細かいことに気付いたのか ということが後に分かった。

　彼にも（ほとんど） ないのだ。

　意識しているからこそ気付いたのだろう。

　

　いつか結婚して、妻の膝枕で眠る自分。

　妻は僕が深い眠りについているのを確認する。

　そしておもむろに僕のモミアゲ風をめくり、確かにそこに何もないのを 確認し、笑いの涙をこらえながらモミアゲ風を元に戻す。

　そして、結婚生活においてはそのことには一切触れない。気付かないフリして くれる、そんな女性と結婚したい…

　

　でも喧嘩になったときとかに言われるのだろうか。

ヴァーチャル妻：　「何さ、あんたなんかモミアゲも生えてないくせに！」

ツタン：　「お前…　い、いつから知ってたんだ？」

　とか。

　

　モミアゲ生えていないなんて言わないで絶対♪

　（槇原敬之の「もう恋なんてしない」のメロディに乗せて）

　生えてない人、結構いるよね？実は。