また車関係の話ですが、お付き合い下さい。

　日産ギャラリーで見たフーガ（日産の高級車）は電動シートだったのですが、 高級車には電動シートが使われている ことが多いと思います。僕の親の車も電動シートなのですが、そこで 電動シートの功罪（こうざい）を。

　

　・長所

　多くの人にとって「格好いい」「ゴージャス」

　通常のシートよりも微調整ができる

　シートの位置を数パターン記憶させることができ、運転手によってワンタッチで 切り替えることができる

　乗り降りするときに、自動で下がり、乗降性をアップしているモデルもある

　

　・短所

　エンジンかかっていないと動かせない（というのは古いのかな？）

　素早く一気に動かせない

　子どもがいたずらする

　故障すると動かない、または勝手に動く

　

　この一番最後がクセモノなのだ。

　

　先日一人で親の車を運転したときのことだった。運転始める前の段階で シートが動かなかったので故障しているというのは分かっていた。

　

　

　そして運転中にそれは起こった。

　

　

　何もしていないのに運転席のシートが 前に進みながら前に倒れ始めたのだ!!

　

　僕は必死にスイッチで後に下げ、倒そうとしたのだが状況は変わらない。

　

　この瞬間、自分の無力さを悟り、そして絶望した。シートは完全に
アウト・オブ・コントロール。

　

　

　このシートはどこまで進み、どこまで倒れるのだろう…

　それを知ったところで、自分の運命を変える術などないのだが…

　

　

　まず、シートが一番前まで行き、止まった。この時点でヒザの部分が窮屈で かなり曲がっていた。

　そしてシートの背もたれ部分は休むことなく前方へ倒れ続ける。

　映画などではよく見るが、二つの動く 壁に挟まれそうになっている心境。

　この場合はハンドルとシート。

　

　

　背もたれとハンドルがみるみるその距離を縮め、ハンドルが目の前に 迫ってくる。
ハンドルを押して抵抗しながらも なんとなく瞳を閉じて右を向いておく。

　

　

「もうダメだ！」

　

　

　不運としか言えないこの状況を呪い ながら、

「自分の犯してきた罪」

というキーワードで脳内をもの凄い速度で検索して みたが、何も思い浮かばない。余裕がなかったせいもあるけど…

　

　

「俺が一体何をしたっていうんだ！」

　

　

　胸でクラクションを鳴らし、圧死する と思った瞬間、背もたれは止まり僕は一命をとりとめた。

　

　

　本当に死ぬかと思った。自我に目覚めたコンピューターに殺されるかと 思った。

　このときばかりは電動シートの可動範囲を設計した開発者に心底感謝した。謝々！

　当たり前のことがもの凄く嬉しく感じてしまう。

　

　

　ほっとしたのもつかの間。

　

　スイッチは相変わらず利かない状態での信号待ち。

　

　左車線にいたのだが、 この状態を隣の車に見られているのかも、 と考えると右を見れない…

　

　例えるなら 「ハンドルにしがみついているヤドカリ」 といったところだろうか。 僕がヤドカリ自身で、シートが殻である。

　

　無論、実際にはしがみついているのではなく、 押し付けられているのである。

　決して自分の意思ではないのだが、それを隣の車の人に 伝える術がないのだ。

　「伝えられない気持ち」というのは、なんともどかしいことだろうか。

　

　隣の車に

「あいつ、頭おかしくねぇ↑？」

　とか思われていたかもしれない。

　

　逆の立場だったら

「ウケるけど、その意味が分からん！」

　と言って爆笑してただろう。

　

　その状態に理由こそあれ、意味などないのだ…

　

　新しいジャンルの変態 だと思われても仕方ない状況。

　

　その後、状況が好転することもなく、信号待ちを恐れながらも目的地に着き、 エンジンを何回か切ったりしたがシートは動いてはくれなかった。

　

　車から降りるのに１分近くかかったのは言うまでもない。

　

　反抗期のなかった僕も、このときばかりは親にブチきれた。